第3回 藤さんの旅と食と人と~東京・檜原村―タイムスリップのヘルシーフードー~
ずっと自分の中で気になっていた檜原村を訪れてみた。檜原村は東京都の本土で唯一の村だ。都心から約1時間半かけてJR「武蔵五日市」駅へ。そこからバスに乗り換えて、秋川渓谷沿いのカーブ続きの道を進んで、バスを降りたとき、とても月並みな表現だけど、僕たちが生まれた頃、いやそれよりも前の時代にタイムスリップした気分になった。
とりあえず今日止まる民宿まで歩いてみるが、時おりすれ違う車を除けばほとんど人影を見ない。
ゴールデンウイークであることすら忘れそうになる。ようやく見つけた大きなこけしが立つ大きな民家のような建物が今日の民宿。入口らしきところに行っても人の姿はなく、しかたなく大声で呼びかけると、まだ掃除の途中のようなエプロンを付けた人の好さそうな女性がすまなそうにあらわれた。「いらっしゃいませ。すみません、人手が少なくて」と恐縮しながら私を部屋までの案内してくれた。継ぎ足した建物 は母屋に比べるとわりと新しく、窓からかなり下の方に清流が眺めた。
まだ日の暮れにまでには少し時間があったので、渓谷沿いの道に降りて、散策をした。ようやく地元の方に会ったと思ったら、何やら遊園地の子供向けの列車のような乗り物に荷物を載せて乗りこんで動 かし始めた。どうやら山沿いの傾斜を上って家まで繋がる乗り物らし。本当にここは東京都なのだろうか。
民宿に戻り、一風呂浴びると夕食の時間。母屋の広間に机が並べられ、私の他にはそれぞれ2人ずつ2組の客がいた。目の前に並べられたのは、山菜、こんにゃく、山芋などの野菜。そして後から、部屋に案内してくれた女性が、鮎の塩焼きと紅葉や大葉の天ぷらを運んできてくれた。今どき、日本中のどの田舎に行っても出てこないような素朴で優しいご飯。年齢のせいなのか、心からこういうものが美味しいと思う。部屋に戻り、川のせせらぎを聴きながら久しぶりに熟睡をした。
翌日は、檜原村に点在する滝を見て歩く。
どこまでも続く渓谷は、どこまでも静かで涼やかで、そして贅沢だ。
とりわけスピリチュアルな人間でもないが、滝を目にすると思わず手を合わせたくなる。
こんな風景を独り占めしてよいものだろうかとさえ思う。
バスの本数が少ない為、昼前のバスに乗り込んだ。そのとき、急に大粒の雨が降り始めた。
まるで私の散策が終わるのを待っていてくれたように。不思議とここではそんな思いを素直に感じ取ることができた。
私ともう1名の客だけを乗せたバスは来た時と逆方向に山を下りていき、徐々に現実の世界に戻っていく。
JRの駅前でバスを降りて、私はSUICAを使って、新宿方面の電車に乗り込んだ。